アンティークジュエリー専門店 ギャラリートイダ銀座

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  • セレブたちに愛されたカルティエのチャームブレスレット

  • 2020/09/01
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    今年の2月、新型コロナウイルスの感染が拡大する直前に渡英し入手したジュエリーのひとつにこのカルティエのチャームブレスレットがあります。直系約4㎝の大きなチャームには海面から飛び上がるブルーマリーン(クロカジキ)が描かれ、背景にはダイアモンドの太陽が輝いています。おそらく大型クルーザーでフロリダ沖へ出航しブルーマリーンを釣り上げる、いわゆるアメリカ富裕層の好むフィッシングゲームに成功したメモリアルにと、カルティエ・ニューヨークへオーダーしたものではないでしょうか。
    実はこのチャームブレスレットを見つけた時にある人物を思い浮かべました。もう10年近くも前のこと。ニューヨークの著名なジュエリーディーラーを訪れた際、仕入れるジュエリーのセレクションに苦慮している私に「早くしてくれ。これからフロリダなんだよ。ブルーマリーンを釣りにな。」何たる高圧的な態度!こちらはお客なのに!!金持ちのディーラーには困ったものだ。何せ客より偉いんだから!!!そんな彼ですが、素晴らしいカルティエのジュエリーをいくつか譲ってもらいました。残念ながら彼はもういません・・・。

     

    ©Sotheby's

    ©Sotheby’s

     

    一般的なチャームブレスレットとは異なり、大きなメダル状のペンダントチャームをアレンジしたこのような作品、調べてみると1940年から50年代へかけて作られていました。近年のサザビーズのオークションカタログにはいくつか見ることができます。そのひとつがやはり同じくカルティエ・ニューヨーク製、大きなグァテマラの20ケツアール金貨をチャームとして用いたもので、旧オーナーが何と実業家で第41代副大統領を務めたネルソン・ロックフェラーの奥様という来歴もありました。ブレスレットチェーンの形状が全く同じということが写真でも分かります。

     

    ©Sotheby's

    ©Sotheby’s

     

    さらにもう一枚の写真。こちらはカルティエ製か否かは不明ですが、女性の手首には大きな円型のペンダントチャームが吊り下げられたブレスレットが着けられています。この人物は第34代アメリカ大統領アイゼンハワーとその夫人です。何故かアメリカのセレブの女性たちに愛された独特のジュエリーなのでしょう。面白いことにこれらのカルティエのチャームブレスレット、クラスプ(留金)がいずれもチャーム本体に対して対面にあるのではなく、円周全体の1/3や1/4の位置なのです。おそらく着用時の落下を防止するアイデアなのかもしれません。

     

    ©Sotheby's

    ©Sotheby’s

     

    ちなみにネルソン・ロックフェラーの妻マーガレッタ夫人のニックネームは“Happy Rockfeller”。米社交界、そして私生活でも常に思慮深く人に対する思いやりを尊重していたという彼女、“Bold, gold jewels for daytime and glamorous diamond jewels for evening”(昼は大胆なゴールドジュエリー、夜は魅惑的なダイアモンドジュエリー)と「Happy流哲学」は徹底していました。このブレスレットを手に入れたら、もしかしたらより一層“Happy度”が増すかも知れませんね。

     

    *ジャパンプレシャスNO.99 2020秋号、アンティークジュエリーアーカイヴズVol.20「コロナ拡大“直前の獲物”」ではこの作品についてより詳細に解説しています。